はじめまして、The White Roseです。今回から、全10回にわたり、「憲法と皇室」を考える連載コラムを執筆させていただきます。
「皇室問題INDEX」は皇室をめぐる偏向報道を検証することを主目的としていますが、本コラムは「憲法と皇室」を考察することで、側面からそれを支えることができればと思っています。
全10回の内容は次を予定しています。あくまで大まかな予定で、途中変更などあるかもしれませんが、その場合はご容赦ください。
日本では結論を曖昧にしたり先送りしたりすることが好まれがちですが、私はあえて、私見の最終結論を最初に述べておきたいと思います。次の通りです。
2005年の有識者会議報告書案(注1)に沿った、できうる限り早期の皇室典範改正が実現されるべきこと。 ただ、上記報告書案の全てを支持しているわけではなく、次の2点については、報告書と見解を異にします。
本コラムでは、私見と異なるお立場のご意見にも十二分に配慮しつつ執筆するつもりですので、異なるご意見をお持ちのお方もお読みいただけますと幸甚です。以上を前提として、本論に入ります。
現行皇室典範1条は「皇位は皇統に属する男系の男子がこれを継承する」と明記しており、現在でも、これが日本建国以来の不変の伝統であると信じている方も少なくないようです。しかしながら、いわゆる男系男子主義が公式に採用されたのは、明治22年(1889年)2月11日公布の大日本帝国憲法と同日、非公式に公布された旧皇室典範においてです。そして、以下に述べるように、上記旧憲法や旧典範制定以前には、女性天皇や女系天皇を認める意見も有力だったのです。
明治維新後、明治天皇は慶應4年(1868年)3月14日に「ご誓文」を神前に奉告され、同年閏4月21日には早くも政体書を発せられました。そして、明治7年(1874年)に「民撰議院設立建白書」が出されるや、翌8年(1875年)4月14日に漸次立憲政体樹立の詔を下せられ、翌9年(1876年)9月には、霊元天皇(江戸時代前期の第112代天皇)の来孫(玄孫の子)にあたる有栖川宮熾仁親王殿下を議長とする元老院に、国憲を起草するよう勅命を賜りました。
元老院では、早くも同年10月には第一草案を起草し、その中で、女性天皇を認める条文を設けました(第一編第二章二条 同四条)。
第一次案には一部議員の反対もあり、二次案では女性天皇を前提とした規定は削除されますが、西南戦争を挟みつつも、起草作業は続けられました。最終案である第三次草案は、起草作業開始から4年後の明治13年(1880年)に聖上に奏上されましたが、岩倉具視、伊藤博文らにより「国体に合わない」等と酷評され、不採用とされました。着目されるのは、最終案の一編二章三条です。同条では、男系承継を前提としながらも、男系が絶えた場合には、明確に女性天皇だけでなく、女系天皇の皇位承継も認めています。
いわば闇に葬り去られるという悲惨な運命をたどったため、従来あまり注目されなかった元老院の国憲按ですが、今日の研究では、日本の伝統は当然としつつ、ベルギー、プロイセン、オーストリア、イギリス、アメリカ、フランス、イスパニア、ポルトガル、スイス、オランダ、イタリア、デンマーク、スウェーデンなど、当時の主要諸国の憲法が幅広く参考にされたことが明らかであり、内容的にも明治憲法よりもはるかに自由主義的、民主的性格の強いものでした。西南戦争という国難を挟みつつも、4年の歳月をかけて起草された草案が握りつぶされたことは残念です。
明治13年(1880年)から同14年(1881年)頃までの間は、民間でも憲法論議は盛んで、多数の私擬憲法案が起草されていますが、そうした案も、男系を優先させながらも、女性天皇を認めるものが多数であり、女系天皇を認める案も少なくないという状況でした。
上記の国憲按を握りつぶした伊藤博文や井上毅は、いわゆるお雇い外国人で公法顧問、内閣顧問として活躍したドイツの法学者、ロエスレルの意見を尊重しつつ、自ら憲法起草に当たることとし、ドイツ・オーストリアに留学します。オーストリアでは、当時の法学の大家シュタインから、皇位継承については、憲法とは別個に議会の関与を許さない皇室の家憲を制定すべきと指導され、伊藤らは議会不関与の皇位継承法を制定する構想を抱くに至ります。
こうして明治18年(1885年)から19年(1886年)頃に、旧典範の第一草案である皇室制規が起草されますが、その1条では男系が絶えたときには、女性天皇並びに、女系天皇を認める旨を規定していました。さらに周到にも、同13条では、女性天皇の皇配は、臣籍降下したもののうち(男系の実系で)もっとも現皇統に近い者を選ぶ旨が定められ、男系主義の伝統との接合も図られていました。
ところが、上記皇室制規に、伊藤博文の懐刀と言われた当代きってのやり手官僚の井上毅が強烈に反対します。この井上の介入以降の展開は次回とさせていただきます。それではまた。
(執筆:The White Rose)